障害者・家族・関係者のみなさん 大阪市ホントになくしてしまっていいの? 知事・市長はいま、大阪市を解体して4つの特別区に分割するいわゆる「大阪都」構想について、深刻さを増すコロナ禍の中であってもなお、何としても住民投票を実施しようと準備を急いでいます。8 月18 日開会の大阪府議会・大阪市議会で「特別区設置協定書」を議決して、11 月1 日に住民投票実施というのが彼らが描くスケジュールです。 ろくに住民に説明をせず、行政組織を根本から作りかえてしまうことなどあってはなりません。みなさんは「大阪都」についてくわしくご存知ですか? わからないこと・心配なことをそのままにして、大阪市を解体してしまっては、取り返しのつかないことになってしまいます。 うそやごまかしに惑わされずに、いま一度冷静な目で「大阪都」構想を問い返してみませんか。このリーフレットは、障害者・家族・関係者が大阪市の解体でどのような影響受けるのかについて、ご一緒に考えるために作成しました。 発行 障害者(児)を守る全大阪連絡協議会 GSP22334@nifty.com きょうされん大阪支部 osaka@kyosaren.or.jp 〒558-0011 大阪市住吉区苅田5丁目1-22 ? 06-6697-9005 ファックス06-6697-9059 大阪市廃止でどうなる?  4つの特別区に分割した後の行政の事務分担などについては、「大阪府・大阪市大都市制度(特別区設置)協議会」(通称「法定協議会」)が取りまとめた「特別区設置協定書」に記載されています。しかしそこで書かれていることは、「○○の事務は特別区が行う」「△△の事務は大阪府が行う」などの事務の振り分けだけで、振り分けた後の事務がどのように行われるのか、本当に市民のくらしに問題が生じないのかなどについては何も説明されていません。  そのような中、市民から様々な心配の声が寄せられたことから、法定協議会は新たに、「特別区の設置の際は、大阪市が実施してきた特色ある住民サービスは内容や水準を維持する」「特別区の設置の日以後において…(中略)…その内容や水準を維持するよう努めるとの文言を協定書に加えました。しかしどのサービスが「特色」があるものなのかも不明ですし、特別区に移行後は「努める」というだけでサービス水準を何ら保障するものではありません。  とりわけ障害者施策に関しては、下に示すような問題が生じることが懸念されています。 介護保険と障害者施策 柔軟な対応が困難に  特別区への移行後、介護保険事務は4つの特別区にまたがる「一部事務組合」が担当し、障害者総合支援法の施策は特別区が担当します。  65 歳を超えた障害者には介護保険が優先適用される、いわゆる障害者の「65 歳問題」について、これまで大阪市は障害者一人ひとりの要望をふまえた柔軟な対応を行ってきました。こうしたことができてきたのは、介護保険・障害者総合支援法の双方のサービスを、大阪市が担当し運営してきたからです。  ところが特別区が設置されると、介護保険サービスの権限はすべて一部事務組合に移されてしまい、特別区からは直接口出しはできません。そのため介護保険サービスと障害福祉サービスの利用調整が困難となってしまいます。 無料乗車証やグループホームはどうなる?  旧・市営交通の無料乗車証の事務は、4 つの特別区に移管されます。移管後もこの制度が継続して実施するかどうかは各特別区ごとの判断にまかせられます。  またこれまで大阪市は、障害者のグループホームへのスプリンクラー設置について特例基準を設けて新規開設がしやすくなるよう対応してきましたが、特別区移行後の対応については何も明らかにされていません。この特例がなくなれば、今いるグループホームから出ていかなくてはならない利用者が出てくることが心配されます。 様々な住民向けサービス 財源難で継続が困難に  大阪市廃止後はさまざまな住民サービスを特別区が担当します。「ニア・イズ・ベター」などと特別区に移されることが良いことのようにも言われていますが、それはすべて財源があっての話です。  実際には法人市民税・固定資産税をはじめ多額の税源が大阪市から大阪府に移されてしまい、新たにできる特別区は大阪府から支給される「交付金」をあてにしないと財源が確保できません。これでは少ない大阪府の「交付金」を4区で奪い合う事態も生じかねません。また国から支払われる「地方交付税」も、毎年200 億円ほど不足すると言われています。  これまで大阪市が比較的豊かな財源に支えられて実施してきた様々な施策が、財源不足を理由に後退する心配が広がっています。実際に2016 年4 月から大阪市立特別支援学校が大阪府に移管されましたが、「水準は後退させない」と約束していたにもかかわらず、教育諸条件は大きく後退してしまいました。 府下市町村にも大きな影響が    大阪市の解体は府下にも大きな影響を与えます。  大阪府の行政機能が開発や成長戦略に集中することから、住民福祉の拡充と市町村との協力がおきざりにされてしまいます。また、特別区設置後は近接する自治体は住民投票をしなくても、議会の決議だけで特別区に編入されてしまいます。大阪市の解体・特別区の設置は全府民が直面する重大事でもあります。 これまで24区がつみ上げてきた住民自治が 大阪市廃止で断ち切れに?  大阪市は、障がい者の地域における生活を支援し、自立と社会参加を促進するため各区に地区自立支援協議会を設置し、相談支援事業や障害者福祉に関した様々な協議を行ってきました。区によっては、自立支援協議会を中心に事業所間のつながりや、地域の社会資源マップ作り、福祉避難所に指定された事業所間の連携など、地域の実情に応じた取り組みをすすめてきました。同様に24 区ごとに様々な場面で住民自治を積み上げてきた歴史があります。特別区の設置でこれまでの積み上げはどうなるのでしょうか?この点について大阪市は、「詳細な制度設計はこれから」としか回答しません。 当事者参加で議論を積み上げてきた、主な障害関連機関  障害者総合福祉法に基づくサービスの整備目標等を定める「障害福祉計画」、障害児者の地域生活の課題などを協議し解決していく「障害者自立支援協議会」、避難行動要援護者などへの支援の在り方を検討する「防災会議」などで議論を進めてきました。 区民の声を、しっかりと受けとめるには程遠い議員定数  4つの特別区に設置される「区議会」。議員数はもともと政令市の中で市民一人当たりの議員数が、3番目に少ない大阪市議会議員の定数を4つにわけたものとなります。そのため人口が同規模の都市と比べて議員数は圧倒的に不足します。人口64 万人の船橋市は定数50 ですが、人口65 万人の天王寺区は19 人。人口69 万人の静岡市は定数68 ですが、人口70 万人の中央区は23 人。これでは議会での審議や区政の監視機能など、区議会が果たさなければならない役割が大きく制約されてしまいます。 まだまだわからないことだらけ だから…  このままでの見切り発車にストップをかけましょう  特別区でどのような施策が行われるのか? 大阪市に尋ねても「これから決める」としか答えてくれません。まるで今後のことは将来の「知事や区長に白紙委任してください」と言っているようです。  自治体の未来は住民が主体となって決めていくべきものです。決してひとりの「リーダー」が勝手気ままに絵をかいて住民に押し付けてよいというものではありません。おまけに政令市が廃止・解体されると、元にもどす法律がないために二度と大阪市にかえることはできません。いま一度立ち止まって、冷静に考え議論していくことこそ大切なのではないでしょうか。 <用語解説> ◆一部事務組合/4つの特別区が共同で設置する事務組合。120 の事務を400 人の職員で担当する。 ◆ 65 歳問題/ 65 歳に達した障害者に介護保険サービスが優先されることから生じる一連の問題。自治体には柔軟な対応が求められている。  ◆スプリンクラー設置の特例基準/ 2015 年に改正消防法が施行され、支援区分4 以上の利用者が8割を超えるグループホームにはスプリンクラー設置が義務付けられた。大阪市はその要件を緩和し利用者が継続利用できるよう対応している。  ◆大阪府に移行する税源と財政調整交付金/大阪府に移行される税源は、法人市民税、固定資産税、都市計画税、事業所税など。そのため特別区には財源不足を補うために毎年財政調整交付金が交付されることになっている。  コロナ禍の中 なぜ急ぐ住民投票  多くの市民が疑問に思うのは、このコロナ禍の中でなぜそんなにまでして住民投票を急ぐのかということです。保健所も医療機関や福祉事業者も様々な困難を抱えながら、現場を必死で支えています。行政として真っ先に行わなければならないことは、そんな現場への支援とあわせ、PCR検査体制を抜本的に広げていくことではないでしょうか。市民が冷静に判断するゆとりを奪われている間をぬって、住民投票をごり押しするやり方は許せません。 現場からゆとりが奪われて… 福祉も教育も大変な状況に 障害児者福祉現場では… 障害児教育現場では…  現在の障害児者福祉現場は、様々な課題を抱えた人たちの支援活動をおこなっていますが人員不足が常態化しています。運営も日割り報酬や成果主義が導入されたため、さらに厳しさが増しています。  そんな中での「コロナ禍」。障害児・者福祉施設は、休業要請されない施設として利用者と家族のくらしを支えるために開所していますが、感染拡大防止対策業務が増大し、これまでとは違う緊張感の中で何とか維持している状況です。生産活動を行っている事業所では、仕事の減少で8 割以上が減収となっています(「きょうされん調査」より)。また、障害児者のくらしには医療との連携が欠かせませんが、安心できる体制は十分に整えられていません。  抜本的な改善とあわせて、大阪府・大阪市による緊急の対応が必要です。 障害児教育現場では…  現在の障害児教育現場は、支援学校も支援学級も過密・過大が深刻化しています。特に知的障害児の支援学校は、普通教室が足りないために、特別教室を普通教室に転用するだけでなく、ありとあらゆる空間を教室にせざるを得ない状況です。  こんな中でのコロナ対策は、教職員や保護者の大きな負担となっています。とりわけ通学に利用するスクールバスは「3密」状態が長時間続くことから特に神経を使います。  大阪府は自ら示した知的障害児学校児童生徒の将来推計で10 年間で1400 人が増えることを想定していますが、それに見合った学校建設計画を立てようとしていません。  子どもの教育権がはく奪されている状況をこれ以上続けることは許されません。万全な感染対策の下で安心して教育を受けることのできる環境整備が急務です。